教えて!AGEのこと

第1回 「AGE」を減らしてアンチエイジング!

昭和大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科学部門教授
昭和大学病院附属東病院糖尿病・代謝・内分泌内科診療科長
山岸 昌一先生

 
見た目年齢の違いはどこから?

 同窓会で数年ぶり、または数十年ぶりに再会した友人を見て、「あぁ、〇〇君も老けたなあ~昔の面影ないなあ~」と感じたり、「△△さんは、若々しくて、すてきだなあ。なんでだろう?」と思ったりしたことありませんか?または、テレビでタレントさんの年齢をテロップで見たときに「え! 同じ年?」とか、「ウソッ、年上だったんだ!信じられない!何で私と違うのだろう」と驚いた経験、ありませんか?― もちろん、ありますよね。でも、この違い、一体、どこからくるのでしょうか?

 それには、「体を構成するタンパク質の糖化反応」、つまり、老化を促進させる悪玉物質「AGE」(エージーイー)の蓄積が深くかかわっているのです。例えば、正常な皮膚に「AGE」がたまってくると、コラーゲンや弾性繊維が変形してハリを失い、お肌のプリプリ感がそこなわれてしまいます。また、「AGE」は、くすみやシミの原因ともなります。つまり、「AGE」が皮膚にたまってくることで、シワやシミができたり、たるみができたりしてくるのです。
 そうです!実は、この「AGE」が、老け顔の原因の一つなのです。ようするに、実年齢より「AGE」のたまりが進んでくると、老けて見えるようになるのです。

見た目の違いは「AGE」の蓄積量の違い

 この皮膚にたまってくる「AGE」の量は、一つには、どれだけ血糖値が高い状況が長く続いたかで決まってきます。早食い、どか食いはダメですよね。また、どれだけ「AGE」を含んだ食べ物を頻繁に口にしたか、紫外線対策をどの程度しっかりと行ってきたかでもたまってくる「AGE」の量に違いがでてきます。揚げ物やファーストフードの類い、甘い炭酸飲料には「AGE」がたっぷりと含まれていますし、紫外線を浴びることにより皮膚で「AGE」がどんどんできてくることも報告されています。いずれも注意したいですよね。
 ようは、食生活を含めたちょっとした日常での生活習慣の違いが、将来の「AGE」の蓄積量に大きな影響を及ぼし、見た目にわかるような違いとなって現れてくるわけです。何事も日頃からの対策が、大切なわけです。転ばぬ先の杖ですね。見た目は、常に若々しくありたいし、頑張りましょう。

体内の老化にも影響が!恐るべし「AGE」

 でも、よくよく考えてみると、「AGE」の影響は、皮膚だけですむものなのでしょうか?見た目がちょっとくらい老けてみられるだけなら、それは、それで十分に嫌ですけど、我慢できなくもありません。タレントさんみたいに顔を売りにしているわけでもないですし、まあ、いいかぁ、と諦めもつきます。しかし、現実は、そんなになまやさしくありません。「AGE」は、皮膚だけにたまってくるわけではないのです。全身にたまり、いろんな臓器の障害、老化現象に関わってくるのです。「AGE」が血管にたまってくると、動脈が固くなり血液の流れが悪くなります。動脈硬化ですね。進行すると心臓や脳への血液の流れがせき止められ、心筋梗塞や脳卒中がおこってきます。脳の中に「AGE」がたまってくると、神経細胞が次から次へと死んでいき、認知症、つまり、アルツハイマー病にかかりやすくなります。骨にたまった「AGE」は、骨をもろくスカスカにしますし、最近では、「AGE」がガンの増殖や転移をひきおこすことまでわかってきています。「AGE」、恐るべしですね。
 つまり、老け顔の人は、体の中にも「AGE」がかなりたまっている可能性があり、体の中の老化も同時に進んでしまっている可能性があるということになります。見た目が老けている人は、体内も老化しているし、体内の老化が進んでいる人は、見た目も老けてみえる!ああ、実に、いやな話です。

老け顔の人は早死にする!?

 以前、6人の同じ年の女性に集まってもらい、身体年齢を体の柔軟性と血管のしなやかさの2つの項目で検査しましたが、見た目が老けて見える人ほど、体の柔軟性が低下していて、血管年齢が高く、心筋梗塞などの危険性が高いことがわかりました。
 さらに最近、衝撃の事実が明らかにされました。その事実とは、なんと、「老け顔は早死にする!」。南デンマーク大学のクリステンセン教授らは、2001年1月時点で生存していた1,826人の双子(70歳以上)をサンプルに選び、その写真を20人の看護師、10人の若い男性、11人の中年の女性たちに見せました。そして、写真の人物が何歳に「見える」か、年齢を推測するように依頼しました。そして、この質問のアンケート結果と、2008年の双子の生存状況との関連性について調べたのです。双子を取り上げたのは、老化に関わる遺伝子を同様に持っていることから、環境の違いにより生じた見た目の変化が、寿命の違いに結びつくかどうかを知るためでした。

 調査の結果、7年後の2008年には、全体の37%に当たる675人が亡くなっていました。そして、その多くは2001年の年齢推測の際に、実年齢より老けて見られた双子の方だったのです。なんと! 老けてみられた人の7年後の死亡率は、そうではない人の1.9倍も高いことがこの研究で判明しました。

 さらに、昨年発表された別の研究では、髪の毛の生え際の後退やザビエル禿など見た目の老化の兆候が沢山ある人ほど、将来、心筋梗塞をおこしやすいこともわかってきています。外見が老けて「見える」人は、中身も老けている。身体の中に老化物質「AGE」がたまると、体の内側も外側も老けてしまうんですね。

「AGE」の摂取量と老化現象や寿命との関連は?

 さきほど、「AGE」を多く含んだ食べ物を頻繁に摂っていると、「AGE」が体の中に吸収されてたまってくることをお話しいたしました。では、「AGE」の摂取量と老化現象や寿命との間には関連があるのでしょうか?― どうやら、サルの研究では関連がありそうです!

 「腹八分目に医者いらず」ということわざがあります。暴飲暴食を戒めて、満腹になるまで食べずに八分目くらいで抑えておくのが健康にはいいということですが、これを裏付けるような動物実験の結果が2009年米国の医学誌に掲載されました。7歳から14歳のアカゲザルを、好き勝手に食べ放題にさせるグループと食べる量を制限して摂取カロリーを標準の70%にさせるグループに分け、20年後、老化度にどんな違いがでるかを調べたものです。
 その結果、食べ放題だったサルは、歯も体毛も抜け、見た目が老けて見えました。一方、食べる量を制限されたサルは、毛もふさふさで若々しく、加齢に伴って観察されてくる糖尿病やガン、心臓病の発症が低く抑えられ、脳の萎縮も抑制されることがわかりました。また、これらの病気で亡くなる危険性も減り、寿命が延びる可能性が報告されました。

 しかし、です。その3年後の2012年、別の研究者から、アカゲザルに同じようなカロリー制限を行っても、必ずしも老化の兆候が抑えられないことが報告されました。一体全体、どういうことでしょうか???
 実は、2つの研究には、決定的な違いがあったのです!両方とも確かにカロリーを抑えたサルとそうでないサルとを比べた試験でした。問題は、カロリーを制限されていないサルの餌の中身の方にありました。2009年に報告された研究では、カロリー制限を受けていないサルの餌の中身は、砂糖たっぷりで、いかにも体に悪そうなものでした。一方、2012年の研究では、カロリー制限を受けていないサルの餌の中身がヘルシーで、砂糖の量は2009年のものに比べて1/7に抑えられ、魚油やフラボノイドなどの抗酸化物質が多く含まれているものだったのです。ようするに、はじめの研究では、カロリー制限でサルの老化が抑えられたのではなく、体に悪影響を与える食べ物を減らしたために、結果として老化が抑えられたことになります。

アンチエイジングのために大切なのはカロリーより「食事の中身」

 つまり、カロリーより、食事の中身が大切だというわけです。言い換えれば、食事量を減らしてカロリー制限したとしても、「AGE」量が同時に減っていなければ、老化を抑え、寿命を延ばす効果は認められない可能性が考えられます。すでに、ネズミの実験では、いくらカロリー制限をしていても「AGE」の制限が実行されないと寿命の延長効果がないことまでわかってきました。「AGE」の摂取量をある程度コントロールできれば、カロリー制限を行わなくとも長寿を手に入れることが可能かもしれませんよ。

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