教えて!AGEのこと

第4回 赤ちゃんの時から「AGE」対策が必要かも!

久留米大学 医学部 糖尿病性血管合併症病態・治療学講座 教授
山岸 昌一先生

 

 「AGE」は、老化と関係深い物質ですが、実は赤ちゃんの時から対策が必要なのかもしれません。驚きの新真実は、最後にお話しするとして、まずは、「AGE」についておさらいをしてみましょう。

 人間の体は、およそ10万種類の「タンパク質」からできています。「タンパク質」は、私たちの体の中で日々、いろんな働きを営んでくれています。血液が酸素を運んでくれるのも、病原菌と戦って風邪を直してくれるのも、また、食べたご飯を栄養にかえてくれるのも、みんな、みんな「タンパク質」のおかげなのです。その「タンパク質」が「糖化」してできた最終生成物が「AGE」です。イメージとしては、砂糖まみれのお菓子を想像していただければいいかと思います。正常な「タンパク質」の表面にベタベタと「糖」がごびりついて、本来の「タンパク質」とは似ても似つかない、働きの劣化した「タンパク質」の成れの果てが「AGE」というわけです。

体内であらゆる悪さをする「AGE」

 「タンパク質」は、血管にも、脳にも、筋肉にも、皮膚にも、髪の毛にも、骨にも、その他、いろいろな臓器に存在しています。それらがいっせいに「糖化」すると……体の至るところで「AGE」ができてきて、いろいろな臓器障害がおこってきます。

 たとえば、皮膚を例にとってみましょう。そもそも皮膚は、コラーゲンや肌にプリプリ感を与える弾性繊維などの「タンパク質」からできています。そして、これらの「タンパク質」によって、弾力性やハリが生み出されています。しかし、これらが「糖化」を受け、「AGE」化してしまうと、その影響により、しなやかさがなくなり、硬くなってきてしまいます。結果として、肌のハリや弾力性が失われ、シワやたるみがでてくるのです。

 また、「タンパク質」が「糖化」すると、色はどう変わるでしょう? ホットケーキを思い出してみてください。そう、肌は「糖化」によって、黄、茶色化しますよね。そのため、「黄ぐすみ」という老化現象もおこってきてしまいます。

 髪の毛でも、似たようなことが起こりえます。髪の毛は、ほとんどがケラチンという「タンパク質」でできています。これが「糖化」し、「AGE」化すると、強度が低下し、髪のコシが失われ、もろく傷みやすい髪質になってしまいます。また、キューティクルを含む「タンパク質」の透明度も低下するため、ツヤも失われてしまいます。

体内の老化は、健康寿命や病気による死亡リスクにも影響

 さらに、体に張り巡らされている血管も「タンパク質」で作られています。血管の「タンパク質」が「AGE」化すると、どうなってしまうのでしょうか? 血管が厚く硬くなり、「動脈硬化」がおきてきます。「動脈硬化」が進み、血液の流れが悪くなり、脳の血管が詰まってしまうと「脳梗塞」、心臓の血管が詰まってしまうと「心筋梗塞」がおきてきます。つまり、「AGE」は、体の内外の老化をひきおこす原因物質の一つなのです。

 では、高血糖状態が続く糖尿病では、「AGE」はどうなるのでしょうか。そうです!糖尿病の人では、「AGE」が大量に作られ、蓄積されてしまうのです。

 糖尿病は、血糖値を下げる作用のあるインスリンの働きが悪くなり、高血糖になる病気です。糖尿病では、食べた物を糖として体の中に取り込むことができなくなりますから、結果として、エネルギーとして使われずに余った糖が全身の「タンパク質」にベタベタとくっついていって、「AGE」が大量に作りだされてしまいます。実際、糖尿病の人は、そうではない人に比べて、見た目だけでなく、体内の老化も早く進んでしまうようです。平均すると、寿命は、男性で10年、女性で15年短く、自立して過ごせる健康寿命は男女とも15年短いとされ、死亡リスクは糖尿病でない方の約2倍です。白内障や歯周病、アルツハイマー病にかかる危険性が高く、血管がもろいので、心筋梗塞や脳梗塞になるリスクも3倍と高くなります。さらに、最近、血糖値が高い状態が長く続いた糖尿病患者さんほど、がんにかかりやすく、がんで死亡する危険性も高いというショッキングなデータも報告されました。また、糖尿病が原因で失明したり、透析になったり、足を切断しなければならなかったりする血管の合併症も全て「AGE」の仕業だとされています。

今が健康なら「AGE」を気にしなくてもいいの?

 「AGE」が大量に蓄積されてくる血糖コントロールの悪い糖尿病では、老化のスピードが早まっていることがお分かり頂けたと思います。昔は「風邪は万病のもと」とも言われましたが、今では「糖尿病は万病のもと」と言ったほうが良さそうにも思えますね。

 だったら、糖尿病じゃない人は「AGE」を気にしなくても大丈夫なのでしょうか。当然、違います!

 「AGE」の量は、血糖値×時間で決まるのでしたよね。そして、ヒトは、生きていくために糖をエネルギーとして使っています。つまり、もともと我々人間は、「AGE」の蓄積を0にはできない生き物なのです。さらに、日々の食事の度ごとに、血糖値はわずかながら上がります。血糖値が上がっている時間帯はそれほど長くはないでしょうが、1日3度、1年365日これが繰り返されることで、「AGE」の蓄積が進みます。さらに、「AGE」は、体内で毎日、少しずつ作られているだけではなく、「AGE」を含む食品を摂取することで、口から体内に取り込まれてしまいます。ですから、万人にとって「AGE」対策が必要なわけです。老いを緩やかにしていく上で、「AGE」を意識しながら日々の生活を送っていくことが肝心なのです。

老化や寿命との関連を示す研究データ

 ここでいくつか、直接的に「AGE」がヒトの老化や寿命に関わることを示した研究を紹介したいと思います。

 アメリカの国立老化研究所では、多数のボランティアの身体機能や各種マーカーを長年に渡って計測、解析することで、人間の加齢による変化や老化に関わる因子を研究しています。これら一連の研究は、研究所の所在地にちなんでボルチモア加齢縦断研究と呼ばれています。これまでに行われたいくつかのボルチモア加齢縦断研究の結果から、「AGE」が老化現象と関連しうることが示めされています。

 約450〜750名を対象としたボルチモア加齢縦断研究では、血液検査時の「AGE」の値が高いヒトほど、貧血があり、腎臓の働きが悪く、動脈硬化が進んでいることが報告されています。また、イタリアトスカーナ地区の住民約1000名を対象に行われた研究報告では、「AGE」が溜まっているヒトほど、歩くスピードが遅く、6年後の死亡率がと高くなることが明らかにされていています。さらにボルチモア居住の高齢女性を対象にした研究によれば、「AGE」の値が高いヒトほど、握力の低下しており、将来心臓病で死亡しやすいことも示されています。

生まれてくる赤ちゃんの健康のために

 さらに最近になり、母体の「AGE」が胎児に移行することが明らかになりました。胎児は、胎盤を通して母体から栄養を受け取っています。実は、この胎盤を通じて母体の「AGE」も胎児へ移行してしまうのです!つまり、「AGE」値が高いお母さんから生まれてきた赤ちゃんほど、生後0日目にして「AGE」値が高いと言う事実が示されました。さらに、そういう赤ちゃんほど、生後一年でメタボの徴候を示唆する検査値異常が認められるようです。一歳の赤ちゃんだというのに、なんということでしょうか!妊娠されているお母さん方はご自身の体のことだけではなく、生まれてくる赤ちゃんの健康のためにも是非、「AGE」に気を配って頂きたいものだと思います。また、人工的に加熱して作られている粉ミルクのほうが「AGE」を多く含んでいますので、できれば母乳で育てたいものです。

 以上、「AGE」は、あらゆるところに影響を与えうると言っても過言ではありません。「AGE」をためない生活習慣を確立することの大切さがおわかりいただけたでしょうか?「AGE」の恐さを知らない娘さんに対して、おばあちゃん、おじいちゃんの立場からアドバイスして頂くのもいいかもしれません。そのことが、生まれてくるお孫さんのためにもなるわけですから。

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