教えて!AGEのこと

第19回 化粧品でのAGE対策、進化中!

美容・医療ジャーナリスト
海野 由利子 氏

 
いち早く研究に取り組んだ「カネボウ」の抑制アプローチ

AGEはタンパク質とグルコースなど糖の化学反応によって、複数のステップを経て生成されます。つまりタンパク質の糖化の最終的な状態がAGEなのです。AGEが体内に蓄積するとタンパク質本来の正常な働きが維持できなくなくなり、機能低下や老化を引き起こすとされます。
たとえばタンパク質の一種であるコラーゲンは本来、コラゲナーゼという酵素で分解されますが、AGE化したコラーゲンはコラゲナーゼが認識しにくくなるため、分解されにくくなります。AGE化タンパク質は分解・排出されず体内に蓄積されてしまうのです。(図1)

(図1)


さて、美容的に気になるのは皮膚内のAGE。早くから糖化研究を行っていた 花王 生物科学研究所主任研究員の川端慶吾さんにお話を伺いました。
「糖化や皮膚に存在するAGEについての研究は1997年ごろから開始しました。皮膚のAGEはどこにあると思いますか? タンパク質と糖の化学反応でできる物質ですから、皮膚のタンパク質の約7割を占めるコラーゲンが存在する真皮だろう、と考えますよね。糖化によってコラーゲンが黄ばんだり硬くなることが広く知られていましたし。真皮層のコラーゲンは代謝が遅く、その半分が代謝されるまでに10数年かかります。ですから、長い期間をかけてAGE化したコラーゲンが蓄積して皮膚の老化につながるのだ、と認識されていました」。ところが、2009年にその認識がひっくり返る発見をします。
「研究技術が進化し、より精密な画像データが得られるようになったので、改めてどこにAGEが存在するかを調べてみると驚くべきことが解りました。なんと、AGEは真皮よりも表皮に多く存在していました。表皮細胞の細胞質が、AGEの存在を示す赤色のシグナルで表わされたのです。さらに老化した皮膚では、このシグナルがより強く検出されました。最初にこの結果を見たときは、何かの間違いではないかと思いましたし、社内で報告したときも信じてもらえませんでした」(図2)

(図2)


皮膚の糖化について、「代謝の遅い真皮だからこそAGEが蓄積する」、「真皮よりはるかに速い25~50日ほどで細胞が入れ替わる表皮には、AGEはさほど溜まらない」と考えられていたから、この発見は騒ぎになったそう。
「しかもこのデータを得たのは紫外線が当たりにくい腹部の皮膚です。つまり、皮膚の糖化は紫外線の影響に関係なく、真皮だけではなく表皮でも加齢によって進んでいるということが示されたのです」。それは加齢や生活習慣で変化する体内の環境によって糖化が起きるということを表していると言えそうです。
2012年には、AGEの蓄積で角層の水分量が少なく、肥厚した“形態異常”につながることを発見。その原因として新たに解ったのが、表皮がAGE化することでフィラグリンの発現が低下することでした。
「フィラグリンは顆粒細胞に存在するたんぱく質の一種で表皮細胞の角化に関わり、その後は分解されてNMF(天然保湿成分)となります。そのため、フィラグリンの発現が低下するとNMFの量が少なくなり、角層の水分量が少ない状態になります。また、角質細胞はスカスカで肥厚した形となり、分厚くいびつな角層が形成されます。これによって皮膚の透明感の低下やキメ、ツヤ感など、肌の見え方に影響を与えるのではないかと考えています」。

「このように皮膚の糖化、AGEが存在する場所、それによる皮膚の見え方などについての研究が進み、メカニズムが解明されはじめてきたので、日々のスキンケアを行う化粧品で何ができるか?という視点で化粧品開発を行えるようになりました。まずはAGEの蓄積を抑制するアプローチを探る研究と商品開発を進めています」。
カネボウ化粧品ではチョウジ抽出液に着目。表皮AGEの抑制効果が期待できることから「DEW」ブランドのスキンケア製品に配合。「DEW」は肌全体の明るさと透明感の美しさを提案しているブランド。表皮の糖化抑制のアプローチが加わったことで、うるおって透明感のある肌を育てていける可能性が高まっています。

美容・健康飲料として人気の「ノニ」にはAGEの生成抑制作用と分解作用が

美容や健康のために食を重視する人は増えていて、人気が高まっているものにノニジュースが挙げられます。ノニとはインドネシアが原産とされる熱帯植物で、その実は昔から健康に良いことが知られ、伝承療法や民間療法で治療や病気の予防に用いられてきました。1700年代にはタヒチの原住民が実を食していたという記録があるそうです。「ノニ」という名前はハワイ語で、学名は「モリンダシトリフォリア」。紫外線が強い土地で育つのため抗酸化力が高いのが特徴で、近年の研究でノニ果汁にはイリドイド、中鎖脂肪酸、スコポレチン、カリウム、などの成分が含まれていることがわかりました。
日本では、2015年の日本抗加齢医学会総会で「ノニなどのイリドイドを含む植物エキスはAGEの生成抑制作用と分解作用の両方を持ち合わせる素材である」という研究発表を行なわれて注目を集めました。
さらに、2016年には皮膚に対する働きも発表されました。同志社大学と モリンダ ワールドワイド インクの共同研究で、AGEによってメラニン色素の産生が促進されるメカニズムを発見。その抑制にはノニ種子エキスが有効であることが確認され、研究結果はOnline Journal『Glycative Stress Research』に発表されています。

皮膚に対するノニの抗糖化作用が立証されたので、この研究を活かした化粧品も開発され、モリンダ ジャパンから発売されています。肌本来の耀きの実現をコンセプトとする「テマナ ノニ ブライトニング」シリーズと、毛穴の目立たないなめらかな肌触りと上品なつやめきを目指す「テマナ シルク」シリーズです。
「テマナ ノニ ブライトニング」シリーズは白さだけにこだわらず、肌本来の耀きの実現がコンセプト。ノニの種子、果実、葉を原料にした成分の配合が特徴で、抗糖化によりシミや色ムラが現れることのない健康的で明るい肌を目指します。
「テマナ シルク」シリーズは、ノニ種子エキスを多重層のリポソームカプセルに封じ込め、ノニ種子オイル、ノニ葉汁、ノニ果汁を配合。肌本来の働きを引き出すので、シワや毛穴の目立ち、くすみなどが気になる人のエイジングケアとして使えます。
食べて良い効果が得られる植物は肌にも良い効果があることがわかり、化粧品に配合できる原料が作られる背景には、近年の研究や開発技術の進歩があります。そこに「AGE」や「抗糖化」の視点が加わりことで、エイジングケアやブライトニングケアの実感も変わっていきそうです。


体の内側と外側からトータルケア 糖化ケアに着目した「エイジーセオリー」シリーズ

2011年にエステサロン専売スキンケアブランドとして誕生したアクシージアでは、肌のAGE(糖化)が肌老化を加速することから“美容の大敵”ととらえ、AGEケアを意識した美容ライフの提案として2018年に糖化に着目したエイジングケアシリーズ「エイジーセオリー」を発売しました。化粧水、乳液という基礎化粧品に加え、美容液、ジェルマスクなどのスペシャルケアアイテムまでラインナップ。

AGEの蓄積で肌は透明感が低下し、黄ばみやくすみが現れ、手触りがごわついたり硬くなったりするという研究報告があり、それらを防ぐアプローチは植物由来成分で漢方の考えを応用して行っているのが特徴。エイジングケア成分として配合されているのは、糖化阻害作用が確認できているセイヨウトチノキ種子エキス、セイヨウオオバコ種子エキス、ユキノシタエキス。化粧品成分として長く使われてきた安全性、安定性も重視して選択し、肌質に関わらず使える処方を採っています。
そして'19年には、中国を中心としたアジア圏における美容意識の急激な高まりから、大変な人気を博した「ヴィーナスレシピ AGドリンク」を4度めのリニューアル。同時に商品名が「エイジ―セオリー AGドリンク 4th」に変わり、フィッシュコラーゲンとハーブミックス(紫菊花、マンゴスチン、セイヨウサンザシ、アムラ果実、桑葉)を配合し、含有量も20%アップ。「エイジ―セオリー」はAGEを意識したエイジングケアを体の内側と外側からのトータルの美容ライフを提案するシリーズとなりました。

このような動きはAGEの認知が広まり、対策を知りたい・ したいというニーズの現れでしょう。AGEに着目した製品を研究開発している3社をご紹介しましたが、今後も健康・美容のために「AGE」はますます重要なワードとなっていきそうです。



≪参照≫
カネボウ化粧品「DEW」ブランドサイト

https://www.kanebo-cosmetics.jp/dew/


モリンダ ジャパン 「テマナ ノニブライトニング」シリーズ

https://morinda.com/2471088/jp/shop/5208761


モリンダ ジャパン 「テマナ シルク」シリーズ

https://morinda.com/2471088/jp/shop/6735045


アクシージア 「エイジーセオリー」シリーズ

https://axxzia.co.jp/brand/category/agtheory/